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宇宙基本法改正に関して

Tag: 宇宙self @ 11:00 PM

 冥王星です。やっと宇宙基本法改正と相成ったわけですが、メディアの報道に関しては、非常に論点の難しさがあります。
 しかし、今回の改訂で

 やっと、日本の宇宙開発の政治的環境が整備された

という感想です。 
 まだ改正案そのものを現任しているわけではありませんが、手持ちの法案と改定前の宇宙基本法との比較論、そして、国際法である「宇宙法」と三つ併行させて説明します。

国際法における宇宙

 まずは、国際的宇宙開発の現状について、公になっている範囲での説明をします。
 国際法としては、宇宙法という大きなカテゴリーとして宇宙開発、宇宙技術に関する法があります。
 今回の宇宙基本法改正に関しては、「宇宙条約」が重要な規定になります。
宇宙条約を要約しておきます。
(正式名称は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国交活動を律する原則に関する条約」で日本も批准しております)

  1. 平和的目的のための宇宙空間の探査及び利用の進歩が全人類の共同の利益である
  2. 核兵器若しくは他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せること又はこれらの兵器を天体に設置することを慎む(詳細は4条)
  3. 月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用は、すべての国の利益のために、その経済的又は科学的発展の程度にかかわりなく行われるものであり、全人類に認められる活動分野である。(1条)
  4. 月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。 (2条)
  5. 宇宙開発技術に関連した他国への妨害、破壊行為を原則禁止とし、物損の国家の賠償責任を認める(7条)

以上のような取り決めが基本にあります。現状、近年の宇宙条約の課題としては、

  • 宇宙の範囲はどこまで?という問題点があります。各国の領土上空(領空権)と宇宙の境は不明です。従って、ICBM(大陸間弾道ミサイル)が宇宙空域での活動となれば4条の大量破壊兵器の禁止に抵触する。
  • 条文では大量破壊兵器の禁止は記述されているが、軍事措置を全面的に禁止していない。

 南極条約のように、包括的に軍事措置(条文内では「軍事的性質の措置」)の禁止を明文化していない以上は、条文内に抵触しない軍事利用は否定されていない、と解釈できる余地がある。

第一条【軍事利用の禁止】

  1. 南極地域は、平和的目的のみに利用する。軍事基地及び防衛施設の設置、軍事演習の実施並びにあらゆる型の兵器の実験のような軍事的性質の措置は、特に、禁止する。
  2. この条約は、科学的研究のため又はその他の平和的目的のために、軍の要員又は備品を使用することを妨げるものではない。

 さて、実際の所、宇宙条約の問題点は他にもありますが、宇宙基本法に関連しないものは割愛するとして、現状の各国の宇宙開発技術の実情についてお話したいと思います。

宇宙開発の現況

 冷戦崩壊以後、世界の宇宙開発競争は積極的な軍事側面での進捗は見られません。
 これは、宇宙条約による軍事利用制限、宇宙開発のコスト面と対費用効果から現状という問題点が顕著であると考えられます。事実、アメリカ、中国以外では軍事的利用を積極的に行う姿勢は見られません。
 これは、あくまでも侵略的軍事措置に近い宇宙利用の側面であり、平和的軍事利用という側面では、偵察衛星はEU、日本、インド、イスラエルなど各国が衛星の打ち上げを行っています。
 去年、中国が衛星攻撃兵器実験を行い宇宙軌道上の自国の衛星を破壊し、久しぶりに宇宙条約に関係する事案として業界を騒がせています。
 同じくgoogle社のGoogle Earthに使用による潜在的危険性など様々な問題点を抱えてきています。
 宇宙技術が国家の主体的な管理の時代の終焉を迎えているとの指摘ですが、現状の宇宙条約では自国の企業の宇宙活動もその国の責任の範囲になります。

旧宇宙基本法と平和利用

 条文の比較をします。さて、非常に申し訳ない話ですが、「宇宙基本法」という法律は今回決議された法律以外にはありません。それ以前にあるのは、「昭和44年の宇宙平和利用決議」のみであり、これまで法律として日本は宇宙に関連する国内法はなかったと理解してください。 
 では、旧宇宙基本法(我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議)

我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議(1969年5月9日衆議院本会議)
 我が国における地球上の大気圏の主要部分を越える宇宙に打ち上げられる物体及びその打ち上げロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び人類社会の福祉を図り、あわせて産業技術の発展に寄与すると共に、進んで国際協力に資するためにこれを行うものとする。

 前述したが、平和利用の射程に関しては難しい問題があるのだが、偵察衛星などは専守防衛を旨としている我が国を守るためには必要とも考えられる。
 投射兵器(ミサイル兵器)の登場・発展で根本的に事後防衛(ミサイル発射後の防衛)の難しさ、事後防衛のために必要な投射兵器の位置確認などで防衛的戦略運用が必要になっていることは、北朝鮮のテポドン騒動でも明確化していると思う。
 平和を維持するための軍事利用が「平和の目的」ではないのか?と言われれば回答が難しい。
 補足的に敢て意見喚起するならば、

  • 既存の世界の平和主義思想は、国連、NATOなどの集団安全保障体制が主体的な活動を行い、日本も多少なりとも活動している。これらの活動で宇宙技術が使われることも「平和利用」ではないのか?
  • 同時に、戦争という「国家間闘争」から「テロの時代」という側面でも偵察衛星の必要性は「平和利用」と言いえないのか?
  • 国内治安維持の側面の「平和利用」の想定はありないのだろうか?

 本件の本質的な問題点は「平和」の規定、定義に尽きると思う。
 本件に関する質問主意書と回答があるので確認することをお奨めします。
宇宙の平和利用決議に関する質問主意書”宇宙の平和利用決議に関する質問主意”に対する答弁書

宇宙基本法について

 さて、核心の宇宙基本法に説明を
 要約すると、

  • 宇宙開発に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の向上及び経済社会の発展に寄与するとともに、世界の平和及び人類の福祉の向上に貢献する
  • 宇宙の開発及び利用(以下「宇宙開発」)の重要性の確認
  • 宇宙開発に関し、国の責務等を明らかにし、並びに宇宙基本計画の作成について定める
  • 宇宙開発戦略本部を設置(1条)
  • 宇宙開発は、宇宙開発に関する条約、日本国憲法の平和主義の理念に準拠する(2条)
  • 民間における宇宙開発に関する事業活動を促進するため、必要な施策を講ずる。(16条)
  • 宇宙開発に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、宇宙開発戦略本部を置く。(25条)

 さて、軍事利用に関して同法では注目すべき条文を付加している。

第十四条 国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発を推進するため、必要な施策を講ずるものとする。

 この条文は、ある意味、平和利用=安全保障の側面での宇宙開発を示唆していると解する余地があると思います。
 宇宙の平和利用に関しては論点が非常に不明瞭、主観的、価値観の領分なので、敢て掘り下げないが、宇宙基本法の制定の意義は、16条、25条などに盛り込まれた政治的宇宙開発への介入という画期的な法律であることだと思います。
 これまでの日本の宇宙開発は文部科学省管轄で収まり予算などで難渋してきた過去がありますが、法律的に「宇宙開発の進捗」を名言されたことは大きな意味があります
 実際、多くの宇宙開発国家は「宇宙法」を制定し、国家的プロジェクトとして大々的に事業を行ってきましたが、日本では一行政機関の事業であったわけで、比較にならないほど、宇宙開発のポジションが上がったと言えます。
 むしろ、宇宙開発の法的環境整備にやっと着手した、と言うべきかもしれません。

 しばしば論点としてメディアでは、「平和利用」の側面だけを指摘される「宇宙基本法」ですが、その価値の大きさは、宇宙開発の法整備の完成という視点も忘れてはいけないと思います。

冥王星の私見

 冥王星的な結論からすれば、宇宙基本法に賛成の立場です。

  • 宇宙に関連する基本法がない異常な状態を脱却するため
  • 国家的な宇宙開発に関する計画・立案を行うため
  • 民間の宇宙開発の助成のため
  • 国際宇宙法(宇宙条約など)の踏襲と追認の意味

 以上の4点を踏まえて、宇宙基本法成立を喜びます。

 「平和利用」「平和目的」という法解釈の難しさの課題というものが、実在すると思います。この件に関しては踏み込んだ見解は、敢て提示しませんが、

  平和主義の再構築、平和とは何か?、平和を担保するものは何か?

という重要な課題について、深く国民的な議論の余地を残していると思います。
 冥王星個人は、国家の自衛権射程に収まる軍事利用を認めるスタンスですが、自衛権を認めない人の言説については、スルーしたいと思います。
 最後に、自民党の宇宙法立法有志による「宇宙法案の概要の図」を提示して、終了します。
宇宙法案の概要の図

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