6 04

クラスター爆弾<読売新聞>

Tag: 軍事self @ 2:10 AM

 人道的見地による軍縮は必要だが、安全保障を損なうのも困る。
 クラスター爆弾の禁止条約案が、100か国超の参加するダブリン国際会議で採択された。
 クラスター爆弾は、内蔵する多数の子爆弾を空中で散布し、広範囲に地上を攻撃する爆弾だ。費用対効果が大きい反面、海外では多くの民間人が不発弾の被害に遭っている。近年、禁止を求める国際世論が急速に高まった

 費用対効果という側面では、クラスターは通常兵器としては規格外の効果がある。
 通常兵器の数十倍以上の「面制圧」効果がある。ある意味では、軍縮時代が作った究極的攻撃兵器と言える。おそらく核兵器に準ずるほどコスト面に優れた兵器だと言えなくもない。
 ここであえて指摘しておくが、現状の核不拡散(NPT)体制がインド、パキスタン、北朝鮮とモロくも崩れたことも含めて、クラスター全廃の拘束性の問題を考えておいてもらいたい。

 クラスターの軍事的長所を端的にいえば

・コンパクトで大規模な面的を制圧が可能
・運用コストにおいても既存の通常兵器よりも安価

 であり、昨今の世界的軍縮傾向もあいまって評価されている。
一方では指摘されているような不発弾の問題があるがこれについては疑問視するべき要素がある。
・不発弾の確率を下げることで民間人被害を逓減できる。
・軍事的制圧拠点を再生することの困難さは、クラスターも通常兵器も大差ない。

 対人地雷は兵器として隠匿されているからこそ危険であり、対人地雷のような危険性はクラスターではない。
 クラスター批判者が指摘する不発弾問題は技術的な解決が可能であり、仮に不発弾であっても、戦略的に意味で、子爆弾を識別できるようにペイントしていることも間違えていけないと思う。
条約として、子爆弾のペイント規格の統一化を図れば、不発弾問題は回避できる
 
被害が出ているのは、イラク、ラオス、アフガニスタン、レバノンなどだ。いずれも遠い地域だが、クラスター爆弾を保有する日本も無関心ではいられない。 
 条約案は、「子爆弾9個以下」「自爆装置付き」「目標識別能力付き」などの条件を満たす最新型の爆弾を除き、禁止対象とした。全面禁止に近い内容だ。
 日本は、保有するクラスター爆弾のうち、自爆装置付き爆弾の例外扱いや、移行期間の設定を主張したが、認められなかった。

 クラスター爆弾不発弾の批判論点の主体は
①仕様であり、ある程度の割合で不発弾が発生するようにすることで、その後の復旧の遅延効果を狙っている
 これが事実ではないという反論もある。
 不発弾が存在するだけその兵器の破壊力は落ちるわけであり、抑止力としても破壊目的の兵器としての正確性の問題を残すし、不発弾は行使する側にも降りかかる問題であるから、意図的に不発弾にする意味はない。
 同時に、意図的に不発弾を入れるならば、爆薬も入ってないダミーを入れるくらいで、遅延効果は得られる。②意図的に民間人が拾い易いように興味を引く形になっている。むしろ、 この批判も同意しかねる。アフガン戦争で、投下救援物資の塗料色が、クラスターの子爆弾に近かったという事実があったが、これは救援物資側の色彩の変更で解決できる手段であるし、目立つ不発弾なら、教育によって不発弾回避、処理は可能だろう。地雷批判において妥協する素地があったのは、地雷が隠されているからであって、不発弾はむしろ行使する側自身も判別できるようにしているのである。
③地雷禁止条約の抜け道のための地雷利用のための手段
 この評価は、クラスター子爆弾=地雷、という前提になるが、前述したとおり、塗装していること、隠す意図がないことからも、地雷とは性格が違うと言える。
 そして、不発弾問題を解決するために自律的に不発弾が自滅する自殺装置まで備えても、クラスターが許されないのは理解できない。
 批判点を改良した上での妥協に譲歩できないものだろうか?
 そして、批判点の問題解決してもクラスターを批判するのは、論理性がないと思えてならないのだが・・・・・

 米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮などは、ダブリン会議に参加しておらず、クラスター爆弾に関して何の規制も受けない。その意味で、日本の主張には理があるはずだが、他の参加国の理解を得るには至らなかった。
 一方で、条約案には、非加盟国との共同作戦には関与できる、との条項が盛り込まれた。米国との軍事協力の余地を残すもので、日英仏独などの主張が通った。

 条約批准国と日本では国際的軍事環境が違うことは問題にするべきではないだろうか?
 EUはNATOという強烈な防衛網であって、クラスターを必要としない軍事力的余裕、想定される有事の確率の低さと、クラスター全廃できるだけの環境がある。
 一方、日本ではどうか?と言われれば、疑問符がつく。

 条約案は、参加国の圧倒的多数が推進した。内容面で多少不満があっても、人道上や軍縮推進の立場から、日本が同意を決断したのは、妥当な判断だろう。

 冥王星はクラスター爆弾はむしろ、防衛思想性に優れた兵器だと思う。
 侵略的側面も強いのは否定できないのだが、近代戦争を単純分析してみて考えるに

・電撃戦が困難になる
・戦争の長期化による外交的紛争解決の時間を確保しやすい
・国防費の逓減の加速化

という評価に従えば、専守防衛国家日本に最適な兵器ではないだろうか?
 もちろん、クラスターの攻撃性の側面の脅威はあるにしても、これは制空権闘争という戦術的側面で分析すれば、今の日本ならアメリカ、ロシア以外なら単独でも制空権を保守できる環境だと思える。

 日本は12月に条約案に署名する方針だ。これに伴い、条約が発効すれば、自衛隊の保有する4種類、総額276億円分の爆弾を8年以内に廃棄する義務を負う。廃棄と代替兵器導入には総額数百億円を要するとも見られている。

 国際的合意に従うことにした以上は、反論しても仕方ないのだろうが、廃棄経費が莫大である。”仕方ない”にしても考えてほしいのだが
①クラスター爆弾配備経費+廃棄コスト  
②廃棄しないことで発生するマイナス効果

どっちが高いのだろうか?冥王星は、①>②なのだが・・・

 防衛費の抑制傾向が続く中、少なくない金額だ。政府は、効率的な廃棄方法を含め、総合的な対応策の検討を急ぐ必要がある。
 問題は代替兵器だ。
 条約案の対象外となる目標識別能力付き最新型爆弾は、ピンポイント攻撃には適しているが、広い範囲を攻撃し、「面を制圧する」ことはできない。島国の日本にとって重要な、敵部隊の上陸を阻止する効果は小さい
という。

 どんなに高質な爆弾でも攻撃範囲が制限される状態では、量が質を凌駕することも想定できる。
 最新鋭のMDシステムでも、ダミーを鬼のように投射すれば限界があるように、質と量においてクラスターの優位性は国防機能において高いのである。

 完全な代替兵器を探すのは簡単ではない。米軍との防衛協力を含め、戦術面の見直しなども検討する必要があるかも知れない。

 現状、代替可能性のある兵器はないと思います。


兵器全般に言えることだが、兵器は存在を意識させることだけで効力を発揮する。(それがウソであっても、そう信じ込ませればいい)
 クラスターの兵器の性格からしても、”諸刃の剣”である。しかし、軍事予算の限界という視点でもこれほ現代的合理性の高い兵器はないのだが・・・・・
 兵器などは運用する側によってどうにでもなるものだが・・・・・・
 前述したが、兵器に人道もクソもない。兵器の主眼は、いかに敵戦力を無力化するものであって、破壊力は二の次なのだが・・・・・・近視眼的にクラスターの悲惨さだけを見て兵器を嫌悪するならば、何も破壊しないで軍事力を無力化する方法を提案してほしい。


6 02

きぼう打ち上げとその後

Tag: 宇宙admin @ 9:11 PM

ディスカバリー打ち上げ

6月1日、日本の実験棟「きぼう」の船内実験室を搭載した、スペースシャトル「ディスカバリー号」が打ち上げられた。「ディスカバリー号」はこの後、国際宇宙ステーション(ISS)とドッキングし、船内実験室を取り付ける予定だ。

元々日本は、ISS計画の前身である宇宙ステーション「フリーダム」構想の頃から独自の居住施設の開発を検討し続けていた。その後、1990年に実際に開発が始まり、計画の変更や仕様の変更で何度も苦難を向かえるも、何とか乗り越え、しかし「コロンビア号」の事故で暗礁に乗り上げた。一時は博物館行きが噂され、開発費の高騰や、打ち上げ後の維持費用の面で「打ち上げない方がまだマシなのでは」という声も聞こえだした。それがようやく軌道に乗った。実に約20年の歳月が費やされた。

しかし、今後JAXAは「きぼう」の維持に毎年300億円を、そして日本の宇宙ステーション補給機(HTV)に毎年400億円と、計700億円投じなければならない。果たしてそれに見合うだけの成果がISSで得られるかは微妙なところだ。

そして、さらに今後、日本は有人宇宙開発をどう進めていくのかも真剣に議論されるべきだろう。元々、日本が宇宙ステーションのモジュールを開発するとした動機は、参加を通じて有人宇宙技術を習得するためにあった。
アメリカは2010年にスペースシャトルを引退させ、その後数年のブランクを置いて新型の宇宙船「オリオン」を就航させる。しかし、主に有人月・火星探査に使用される予定であり、さらに現時点で日本は、NASAの有人月探査計画に参加していないため、日本人宇宙飛行士が搭乗出来る可能性は殆ど無い。

一方で、先日ヨーロッパとロシアが共同で、新型の宇宙船を開発すると発表した。また、アメリカのベンチャー企業スペース・エックス社や、ヨーロッパ最大手の航空宇宙メーカーEADSなども独自の宇宙船を開発、構想中であり、軌道には乗らないサブ・オービタル飛行の宇宙船に至っては、アメリカやヨーロッパなど世界各地で開発が行われている。

そして周知の通り、中国はすでに有人宇宙飛行に成功している。今後、宇宙遊泳や宇宙ステーションの打上げが予定されている。

果たして日本はどうするべきなのか。宇宙基本法が成立した今こそ、徹底的に議論し、明確なビジョンを打ち出すべきだ。

(image credit:NASA)


6 01

ISS最大の危機

Tag: 宇宙admin @ 4:39 AM

ISSのトイレ

日本時間で今日の午前6時2分、スペースシャトル「ディスカバリー号」が打ち上げられる。このシャトルには日本人宇宙飛行士の星出彰彦さんが搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の、船内実験室とロボットアームの2つのパーツを設置する。

しかし、今回のミッションはそれだけではない。実はISS運用始まって以来、最も重要なミッションも行われる。

事の起こりは先月28日。ISSのモジュールの一つ、ズヴェズダに設置されているトイレが壊れてしまったのだ。滞在員は係留中のソユーズ宇宙船のトイレや、緊急用の小便パックで用を足す羽目になったが、幸いにして壊れたのは小便用の処理システムで、大便用は機能していた。またその後、滞在員達が自力で応急修理し、多少の不便はあるものの、現在は一応、両方使える状態にある。

今、ケネディ宇宙センターで打ち上げを待つ「ディスカバリー号」には、交換用のポンプが搭載されている。星出飛行士はさしずめ宇宙へ出張するクラシアンと言ったところだが、もちろんその費用は8000円では済まない。

(image credit:NASA)


5 31

LROと米国宇宙政策

Tag: 宇宙admin @ 6:56 AM

今年の10月28日打ち上げ予定の月探査機「ルナ・リコナイサンス・オービタ」に、名前を載せてくれるキャンペーンが行われている。

ここから登録できる。

しかし、ここ数年の月探査に対するNASAの豹変ぶりは面白い。ほんの数年前まで、「月は日本や欧州が好きにしてもいい、我々は火星に行くから」と言って憚らなかったし、現にアポロ計画以降、月探査機もろくに打ち上げてはいなかったのだ。

それが、ブッシュ大統領が2004年に「新宇宙政策」を発表したあたりから変わり始めた。これは「アメリカは人間を再び月に送り込み、そこを足がかりに火星へ、そしてその先を目指す」というもので、当然多くの、特に科学者からの批判があり、今でも根気強くネガティブキャンペーンを張っている。月に人間を送り込んでも、それにつぎ込んだ予算に見合うだけの科学的に有益なデータが得られるわけがない事はアポロ計画が証明しているし、また他の計画へ悪影響が出る事は確実だからだ。

この新宇宙政策では、他にもスペースシャトルを2010年に引退させる、その後は新型宇宙船を就航させるといった事も盛り込まれており、現に今、 NASAでは「コンステレーション・プログラム」の名の下、開発が進められている。新型宇宙船は「オリオン」と名づけられ、それを打ち上げるロケットは「アレスI」、また「アレスV」という貨物専用の大型ロケットを開発する事も決まった。
だが、シャトル引退からオライオンの就航までには、少なくとも5年のブランクが発生し、有能な人材が流出してしまうのではとか、アメリカは国際宇宙ステーション(ISS)を中途半端に放り出すつもりではなど、批判は後を絶たない。

この新宇宙政策が今後変わるとしたら、それは今年の大統領選ぐらいしか無い。珍しい事に、今回の選挙は宇宙政策に関する発言が比較的多い。例えば共和党のジュリアーニ候補(マケイン支持に回ったが)は新宇宙政策の継続を明言し、マケイン候補もブッシュ大統領の新宇宙政策を全面的に踏襲すると明言している。まぁ、同じ党の現職大統領が言い出した事を批判は出来ないだろう。
一方で、民主党のオバマ候補はコンステレーション・プログラムを遅らせ、その分の予算を他計画に回すと表明している。もっとも、後に「月や火星に行くのを遅らせるのであって、オリオンやアレス自体の完成は最優先させ、もちろんISSも完成させる」と付け加えている。また、クリントン候補はブッシュのこれまでの宇宙科学政策を厳しく批判し、立て直すと共に、こちらもオリオン/アレスの開発を最優先させ、特にシャトルからオリオンへの転換点において、有能な技術者が流出しないように努めると明言している。

そもそもブッシュの新宇宙政策には色々と無理が多い。大方の見方は、近い将来中止されるか、良くても大幅に遅れるか、という具合である。大統領が代われば、どんな形であれ、アメリカの宇宙政策は見直される事は間違いない。


5 30

宇宙基本法改正に関して

Tag: 宇宙self @ 11:00 PM

 冥王星です。やっと宇宙基本法改正と相成ったわけですが、メディアの報道に関しては、非常に論点の難しさがあります。
 しかし、今回の改訂で

 やっと、日本の宇宙開発の政治的環境が整備された

という感想です。 
 まだ改正案そのものを現任しているわけではありませんが、手持ちの法案と改定前の宇宙基本法との比較論、そして、国際法である「宇宙法」と三つ併行させて説明します。

国際法における宇宙

 まずは、国際的宇宙開発の現状について、公になっている範囲での説明をします。
 国際法としては、宇宙法という大きなカテゴリーとして宇宙開発、宇宙技術に関する法があります。
 今回の宇宙基本法改正に関しては、「宇宙条約」が重要な規定になります。
宇宙条約を要約しておきます。
(正式名称は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国交活動を律する原則に関する条約」で日本も批准しております)

  1. 平和的目的のための宇宙空間の探査及び利用の進歩が全人類の共同の利益である
  2. 核兵器若しくは他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せること又はこれらの兵器を天体に設置することを慎む(詳細は4条)
  3. 月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用は、すべての国の利益のために、その経済的又は科学的発展の程度にかかわりなく行われるものであり、全人類に認められる活動分野である。(1条)
  4. 月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。 (2条)
  5. 宇宙開発技術に関連した他国への妨害、破壊行為を原則禁止とし、物損の国家の賠償責任を認める(7条)

以上のような取り決めが基本にあります。現状、近年の宇宙条約の課題としては、

  • 宇宙の範囲はどこまで?という問題点があります。各国の領土上空(領空権)と宇宙の境は不明です。従って、ICBM(大陸間弾道ミサイル)が宇宙空域での活動となれば4条の大量破壊兵器の禁止に抵触する。
  • 条文では大量破壊兵器の禁止は記述されているが、軍事措置を全面的に禁止していない。

 南極条約のように、包括的に軍事措置(条文内では「軍事的性質の措置」)の禁止を明文化していない以上は、条文内に抵触しない軍事利用は否定されていない、と解釈できる余地がある。

第一条【軍事利用の禁止】

  1. 南極地域は、平和的目的のみに利用する。軍事基地及び防衛施設の設置、軍事演習の実施並びにあらゆる型の兵器の実験のような軍事的性質の措置は、特に、禁止する。
  2. この条約は、科学的研究のため又はその他の平和的目的のために、軍の要員又は備品を使用することを妨げるものではない。

 さて、実際の所、宇宙条約の問題点は他にもありますが、宇宙基本法に関連しないものは割愛するとして、現状の各国の宇宙開発技術の実情についてお話したいと思います。

宇宙開発の現況

 冷戦崩壊以後、世界の宇宙開発競争は積極的な軍事側面での進捗は見られません。
 これは、宇宙条約による軍事利用制限、宇宙開発のコスト面と対費用効果から現状という問題点が顕著であると考えられます。事実、アメリカ、中国以外では軍事的利用を積極的に行う姿勢は見られません。
 これは、あくまでも侵略的軍事措置に近い宇宙利用の側面であり、平和的軍事利用という側面では、偵察衛星はEU、日本、インド、イスラエルなど各国が衛星の打ち上げを行っています。
 去年、中国が衛星攻撃兵器実験を行い宇宙軌道上の自国の衛星を破壊し、久しぶりに宇宙条約に関係する事案として業界を騒がせています。
 同じくgoogle社のGoogle Earthに使用による潜在的危険性など様々な問題点を抱えてきています。
 宇宙技術が国家の主体的な管理の時代の終焉を迎えているとの指摘ですが、現状の宇宙条約では自国の企業の宇宙活動もその国の責任の範囲になります。

旧宇宙基本法と平和利用

 条文の比較をします。さて、非常に申し訳ない話ですが、「宇宙基本法」という法律は今回決議された法律以外にはありません。それ以前にあるのは、「昭和44年の宇宙平和利用決議」のみであり、これまで法律として日本は宇宙に関連する国内法はなかったと理解してください。 
 では、旧宇宙基本法(我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議)

我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議(1969年5月9日衆議院本会議)
 我が国における地球上の大気圏の主要部分を越える宇宙に打ち上げられる物体及びその打ち上げロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び人類社会の福祉を図り、あわせて産業技術の発展に寄与すると共に、進んで国際協力に資するためにこれを行うものとする。

 前述したが、平和利用の射程に関しては難しい問題があるのだが、偵察衛星などは専守防衛を旨としている我が国を守るためには必要とも考えられる。
 投射兵器(ミサイル兵器)の登場・発展で根本的に事後防衛(ミサイル発射後の防衛)の難しさ、事後防衛のために必要な投射兵器の位置確認などで防衛的戦略運用が必要になっていることは、北朝鮮のテポドン騒動でも明確化していると思う。
 平和を維持するための軍事利用が「平和の目的」ではないのか?と言われれば回答が難しい。
 補足的に敢て意見喚起するならば、

  • 既存の世界の平和主義思想は、国連、NATOなどの集団安全保障体制が主体的な活動を行い、日本も多少なりとも活動している。これらの活動で宇宙技術が使われることも「平和利用」ではないのか?
  • 同時に、戦争という「国家間闘争」から「テロの時代」という側面でも偵察衛星の必要性は「平和利用」と言いえないのか?
  • 国内治安維持の側面の「平和利用」の想定はありないのだろうか?

 本件の本質的な問題点は「平和」の規定、定義に尽きると思う。
 本件に関する質問主意書と回答があるので確認することをお奨めします。
宇宙の平和利用決議に関する質問主意書”宇宙の平和利用決議に関する質問主意”に対する答弁書

宇宙基本法について

 さて、核心の宇宙基本法に説明を
 要約すると、

  • 宇宙開発に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の向上及び経済社会の発展に寄与するとともに、世界の平和及び人類の福祉の向上に貢献する
  • 宇宙の開発及び利用(以下「宇宙開発」)の重要性の確認
  • 宇宙開発に関し、国の責務等を明らかにし、並びに宇宙基本計画の作成について定める
  • 宇宙開発戦略本部を設置(1条)
  • 宇宙開発は、宇宙開発に関する条約、日本国憲法の平和主義の理念に準拠する(2条)
  • 民間における宇宙開発に関する事業活動を促進するため、必要な施策を講ずる。(16条)
  • 宇宙開発に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、宇宙開発戦略本部を置く。(25条)

 さて、軍事利用に関して同法では注目すべき条文を付加している。

第十四条 国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発を推進するため、必要な施策を講ずるものとする。

 この条文は、ある意味、平和利用=安全保障の側面での宇宙開発を示唆していると解する余地があると思います。
 宇宙の平和利用に関しては論点が非常に不明瞭、主観的、価値観の領分なので、敢て掘り下げないが、宇宙基本法の制定の意義は、16条、25条などに盛り込まれた政治的宇宙開発への介入という画期的な法律であることだと思います。
 これまでの日本の宇宙開発は文部科学省管轄で収まり予算などで難渋してきた過去がありますが、法律的に「宇宙開発の進捗」を名言されたことは大きな意味があります
 実際、多くの宇宙開発国家は「宇宙法」を制定し、国家的プロジェクトとして大々的に事業を行ってきましたが、日本では一行政機関の事業であったわけで、比較にならないほど、宇宙開発のポジションが上がったと言えます。
 むしろ、宇宙開発の法的環境整備にやっと着手した、と言うべきかもしれません。

 しばしば論点としてメディアでは、「平和利用」の側面だけを指摘される「宇宙基本法」ですが、その価値の大きさは、宇宙開発の法整備の完成という視点も忘れてはいけないと思います。

冥王星の私見

 冥王星的な結論からすれば、宇宙基本法に賛成の立場です。

  • 宇宙に関連する基本法がない異常な状態を脱却するため
  • 国家的な宇宙開発に関する計画・立案を行うため
  • 民間の宇宙開発の助成のため
  • 国際宇宙法(宇宙条約など)の踏襲と追認の意味

 以上の4点を踏まえて、宇宙基本法成立を喜びます。

 「平和利用」「平和目的」という法解釈の難しさの課題というものが、実在すると思います。この件に関しては踏み込んだ見解は、敢て提示しませんが、

  平和主義の再構築、平和とは何か?、平和を担保するものは何か?

という重要な課題について、深く国民的な議論の余地を残していると思います。
 冥王星個人は、国家の自衛権射程に収まる軍事利用を認めるスタンスですが、自衛権を認めない人の言説については、スルーしたいと思います。
 最後に、自民党の宇宙法立法有志による「宇宙法案の概要の図」を提示して、終了します。
宇宙法案の概要の図


5 30

ウェブサイト設立にあたって

Tag: 雑記admin @ 10:00 PM

 Yahoo!チャット軍事部屋のウェブサイトをご覧頂き、誠にありがとうございます。

 当サイトは、Yahoo!チャットの軍事部屋に集まる常連が、日ごろの議論の内容や、研究、調査、また雑談などを公開する目的で設立されました。

 冷戦終結後も、大規模兵力を擁する近隣諸国の存在や、またテロの脅威など、我々の住む日本は軍事的に予断を許さない状況が続いています。その中にあって、正しい軍事知識を持ち、平和のために行動する事こそが現代社会に生きる人間の責務であるとの思いから、我々は日夜、議論を戦わせ、切磋琢磨する毎日です。

 主な内容としては、航空・宇宙に関する情報収集と分析、第二次世界大戦中における、兵器や作戦等の評価、また現代兵器や近未来兵器、政治・経済なども扱います。
 また、コンピュータシミュレーションを使用した兵器の研究、また文化・芸術が、世界平和に与える影響についても研究をしております。